海を観る家、山を聴く家

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梅雨の晴れ間、真鶴駅に降り立つとホームの山側からむんと草いきれ、一方からは潮の風。
日陰を選び、くねった坂道を登りのぼり、眼下に屋根と海を見ながら歩く。

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酔っ払った看板や道端の祠を過ぎ、ひょいと横にはいると一軒家に「ギャラリーaTo」の文字。

金属製の分厚い扉を開け「ごめんください」
訪いを告げると、うえのほうからどうぞと声がする。
白い螺旋階段をあがる。
リビングに加藤文子さんの植物と小沼寛さんの陶作品が、日射しや海風に気持ちよさそうにしている。
小沼さん加藤さんご夫妻もいらっしゃっていて、後れてきた友人たちも交えくつろいだ時間を過ごす。
小沼寛さんの陶磁器は有機的で繊細なかたちをしている。
植物や昆虫、貝殻や水の記憶がそこにある。波やひかりにたゆたう感じ。
加藤文子さんの植物は”盆栽”と呼んでしまうにはあまりに自由で、植物たちが伸びやかで健やか。
葉のかたち、風に揺れるさま、植物とも静かに対話ができたような気がした。
ギャラリーaTo は、画家・中川一政さんのお宅跡に建てられたので “aTo” なのだそう。
二階のリビングから見える景色は、中川さんが毎日眺めて居られたもの。
この日は波ひとつなく湖面のように穏やかな入り江を望む。
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朝の驟雨に気を取られながら曇天、長谷の鎌倉文学館へ。
「川端康成邸 春の庭園公開」の抽選に当たり、普段は非公開の川端邸が観られることに。
文学館でDVD「川端康成の美の世界」を観たあと、館長のお話し。
川端作品は、なじみのある甘縄神明神社が出てくる『山の音』を読んだくらいか?
ノーベル文学賞やら気むずかしそうな相貌から何となく敬遠していた。
長谷のこども会館、甘縄神明神社のまえを通り川端邸へ。fujikw4.jpg
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いまもご遺族が住んでいらっしゃるので、お庭に面した客間や仏間などをそとから窺う。
平屋の日本家屋は、もとは材木商のお家だったそうで木がふんだんに使われ、
シンプルで質実剛健と云ったふう。
昭和21年から亡くなる47年まで住んでいた、終の住処。
川端さんは古美術品を集めて身のまわりに置き、
創作の源(インスピレーション)としていたそう。
ロダン作の「手」を眺めては作品を書きあげ、文鎮代わりにもしていたと。
仏間には古い時代の聖徳太子の幼い頃の像が。思わず手を合わせる。
黒田辰秋作「拭漆欅飾棚」も客間に観ることができた。
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帰りに六地蔵うらのパン屋さん“La foret et la table”でバゲットを買う
(ここのバゲットはしっぽがとんがっている! そしてカリッと香ばしい)。
図書館で川端さんの『伊豆の踊り子』、酔いどれ詩人?『田村隆一詩集』(思潮社)、
川端さんの短編もはいったアンソロジー『文人御馳走帖』(嵐山光三郎編/新潮文庫)を借りる。
オムレツに、富良野の伯母が家庭菜園で育てたアスパラを炒め、ワインを開け、遅めの昼食とする。
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絵の具が乾くあいだ、言葉が降りてくるのを待ちながらページをめくる。
nn

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