冬の点描

朝から霧雨舞う青味がかった薄墨色の空のした、海岸線を歩き坂ノ下の力餅家へ。
芥川龍之介も好んだあんころ餅は、繭形に丸めた餅にこし餡がのっているシンプルなもの、
しっかりとした餅米にさらりと上品な餡が腑に落ちる。
こちらは葡萄色にちかい薄墨色。
まだ、ほのあたたかい。
無理を云って時間を作ってくれた朋友へ、ぬくもりのまま届けたいと速足で行くが、
片道一時間半もかかるので、『ムーミン谷の11月』を読みながら車中を過ごす。
ムーミン一家は長い旅に出ていて不在。

 午前中に用事を済ませたその足で、暖かな日射しに上着を脱いで県立近代美術館へ。
八幡さまの境内にある鎌倉館の壁には僅かな時間にしか見られない木蔭が、夏の強い輪郭とは違う、
この季節に似つかわしい柔らかな陰影で。葉の落ちた幹が幻灯のように映る
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北鎌倉寄りの別館で「小野元衞展」に心震える。
もっと純粋に真っ直ぐに、孤独と制作に向かいあわなくては。
画面を通して伝わる小野元衞の硬い枯れ枝のような強い意志が、胸に刺さる。

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二階堂のAtelier Kikaで昔のスタッフや作家仲間との気の置けないクリスマス会。
PatisserieRの玲子さん作、正統派ブッシュ・ド・ノエル登場で盛り上がる。

シャンペン(シャンパンとはあえて云わず、わざと昭和な感じに云う)とワインを飲み、
カトリック雪ノ下教会のイルミネーション前を通り帰宅。シトロン形のお月さんがまぶしかった。
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 元居候先のかあちゃんと三人の子どもたちと由比ガ浜通りに新しく出来たイタリアンの
“ラ・コシーナ・デ・ゲン”へ。
予約でいっぱいなのに、無理を云って入れて貰う。
通りに面したカウンター席の奥にはドーム型の窯が設えてあり、その奥にテーブル席、
真新しい室内はオープンして一週間とのこと。
鎌倉ビールを飲む隣で五歳のオトが「鎌倉ビール好きなの? あって好かったね」と囁き、
瞳を三日月にして笑う。
アンティパストやパスタなどは、こちらの要望でいろいろにアレンジしてくれた。
マルゲリータ、トリュフと卵、ルッコラと生ハムの窯焼きピッツァや焼鍋ごはん
(オーブンで焼いたリゾット風)などを子どもたちとモリモリ食べる。
デザート前に二歳のコウは寝てしまった。
クリームブリュレ(メニューにはクレマナントカと)はリング状の林檎チップスが添えられた、
柚子の風味が新鮮な一品。fujikurema.jpg

乾いた強い風に悲鳴をあげながら走って帰る。月はだんだん丸くなり、
さっきよりも星がふえたよと、長女のソラが教えてくれた。
nn

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