月・窓・マスカット

学校仕事の帰り、寄り道みちくさ。
新逗子のカーブをおおまがり、ぷらぷら歩いて風早橋、ふたつめのトンネルをくぐると、
もう夕陽は半分、落っこちていた。
紅葉は未だ。夕陽に照らされて紅くなった葉っぱの山を横目に歩くと、いつもとは違う空気の感触、
葉と土の匂いに愉しくなる。
日中の残りぬくもりに緑のストールもはずし、消防団を過ぎた坂道を上る。
三角館の“クッキー・マスカット”を右に、床屋の三色灯を過ぎると三叉路の真ん中に
“カフェ・マスカット”が見える。
メニューも見ずにショウケースに並ぶあれこれを熟視、チョコレートケーキのプレートをえらび
コーヒーと共にたのむ。
しっかり・しっとり・ずっしりとしたチョコレートケーキには、ホイップされたクリームに無花果、
ベリー、グレープフルーツが添えられて蜂蜜もかかっている。
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チョコレートケーキとクリームを一緒に食べる。コーヒーをひとくち啜り、うなる。
果物とクリームを口へ運び味の景色をかえる。ケーキをひとくち、コーヒーを啜り、
ほうっとひといき。この繰り返しでぼうっとなる。

 南風の強い或る日、久しぶりに一日中自室に籠もり作業をする。
ラジオもつけず、風に翻弄されているものに耳を傾ける。
食器棚のガラス戸が鳴る。木々の葉が大きく揺れている。電線がびいーんと弾かれ、
何か軽いものがカラコロと転がってトタン板にぶつかった。
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波音。間断なく、音の波に次の波が被さり、つながる。つづく。
物干し竿のシーツが大げさに揺れて作るひかりと影に見惚れ、のぼせる。
カメラのシャッターを切るとさらにぼうっとなる。
陽が暮れてもあたたかな室内に、きょうも月が浮かぶ。
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nn

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