天使の輪、或いは見えぬ流星

作業の手を休め、コーヒーを淹れようかココアにしようかぼんやりしていると電話が鳴り、
Kosumi店主が「由比ガ浜海岸にいる」と云う。
寝癖を直しながら忘我の境からこちら側に自身の中身をたぐり寄せる。
自室を出て秋空の乾いた海風を吸い込み、呼吸をととのえる。視界がひらけると風が強く顔にあたる。
滑川傍の駐輪スペースには海に向かってベンチが並び、腰掛ける人たちは思い思いの格好でいる。
姿を見止め手を振ると、店主は空を見上げ「雲が出てきたわね」と、カメラをおろす。
隣ではカントク(店主のつれあい)が横になって昼寝。
ベンチに腰をおろし、一緒に雲の行方を見守る。
陽は西のほう、稲村ガ崎のほうに傾き、雲が多めの空と水平線は溶け合い、風が波を崩す。
無言のまばたき、雲は動きを止めない。
太陽が“天使の梯子”を降ろしたり上げたり、たわいのない会話をひかりと影が遮る。
左手の逗子マリーナを西日が照らすと、店主は立ち上がりカメラと海へ向かう。
何瞬間かすると陽は雲の向こうから稲村ガ崎のうえに輪を描く。
何かが降りてきそうなひかりの輪、ふたりして手放しで見惚れる。
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 快晴の三日月、ナントカ座流星群がいちばん見える夜だと地元ラジオで聞く。
酔い醒ましに、みどりのストールを巻きビーサンを突っかけ海へ急ぐ。
暗闇に目を凝らしひかりをさがす。
飛行機の尾翼灯が左から右へ。
あの紅いひかりは蠍座だろうか
強い海風が星を瞬かせている。
nn

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