砂上幻影

5月も終わりだというのに朝から重い雲に覆われ、
肌寒さから革ジャンを羽織って江ノ電に飛び乗った。
遠くの海から流れ流れてやって来たボトルのように、
思いがけず手にしたその案内状に誘われて、腰越駅で降り、
冷たい海風に向かって漁港の船揚場でぼんやりしていると、
流木製の青いピアノと椅子が砂浜にたたずんでいた。
空も海も灰色に凪いでいる砂のうえに腰をおろす。
ぱらぱらと人が集まり、白塗りの人形遣いが漁師小屋の影から
鳥籠とちいさなサーカステントを持ってあらわれ、
ミニチュア・サーカス団の芸人紹介を始めた。

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太鼓打ちのピエロは、流木やら貝殻やら流れ着いたプラスティック
で出来ていて、サーカスの始まりを告げた。
砂のうえにサーカスのフラッグが張られ、
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てっぺんには青い星の旗がはためく。
キリンの波飛び、船の竹馬にのる鳥、人間大砲と出し物はつづく。
フラメンコの踊り子人形とパルマの男が踊り、観客も手拍子で盛り上げる。
人形遣いは次々と出し物を見せ、ちいさな波の光りさえも取り出して、こちらに放り投げる。
重い雲に覆われた空のした、ちいさな光りが映える。
夢の情景のように出し物が次々と、くるくると変わる。
人形遣いが鳥籠を船に変え、そのまま一緒に飛んでいった。
そうして、波音に紛れてサーカスは終わった。

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誰もいない船揚場でたたずむ。海は凪いでいた。
砂のうえで、切り紙の船とサーカスの旗が揺れていた。
nn

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