重陽と台風

残暑がきびしい。
図書館仕事に行くと、先輩方が声を掛けてくださる。
暑いね、大丈夫? と。

アパートの外廊下に、猫の糞がつづく。
エアコンのない自室、きつい臭いに玄関扉を開けられない今夏、途方に暮れる。

猫に罪はない。

階下の住人はペット禁止の集合住宅で猫を飼い、野良猫に餌をやり、
自分が不在の日中は猫を外に出す。
部屋を出された猫は、アパートの周りで一日を過ごす。

江ノ電線路脇の不動産屋に苦情を告げると、階下の住人が猫を飼っていると。
知っているのに何もしない怠慢に憤りを感じた。

夜になって、台風15号が雨風を伴い渦を巻く。

慕っていた伯父の初七日が過ぎた。
近しい人のため東奔西走し、ストレスなんてないと云う二代目羊飼いだった伯父

伯父貴は こんなとき どうするのかな? と胸に問う。

もやもやしたとき 台所に立って 食べたい物をあれこれ思案し、手を動かす。
手先が器用で料理上手、初代羊飼いの祖父を想い包丁を使う。
あすは重陽
8月の終わり 北海道で羊飼いを隠退した祖父は
大輪の黄色や白い菊の花を咲かせ、品評会に臨む。

黄菊の酢の物を初めて口にしたのは、学生時代のアルバイト先、上野のちゃんこ料理屋で。
ちゃんこ鍋 治部煮 あわびの刺身 松茸ご飯 アメ横裏のキムチ漬
母の知らない美味しいものは ここの賄いで教わった。

雨風の音を聴きながら、汗をかきかき きつね煮麺を作る。
手製の出汁に 甘めの味を付け 油揚げも野菜も一緒くたに煮る。

麺をすすり、ふうふう云いながら 汗と懸念も一緒に流す。
nn

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