窓のまえに据えた机で作業をしている。
陽射しが 暖かい。
干した傘に 桜の花片がひとつ ついていた。
台湾栗鼠が 屋根や枝や露台を 駆け抜ける。
作業の合間にひじきを煮、図書館で借りた本を読む。
『いつもそばに本が』(田辺聖子たち73人・著/首藤幹夫・撮影/ワイズ出版・刊)
物書き絵描き役者らが自身の読書体験を語る、新聞に連載されていたものをまとめた一冊。
モノクロームの写真には 書物に埋もれた寝床から半身を起こし
笑顔のほっぺたがぷっくらとして艶々しい吉本隆明
若いころに出逢った 宮沢賢治や高村光太郎の詩について言葉を紡ぐ。
いまでも 詩の周辺で思い惑っている自分が
はじめて手にした詩集は中学生の時、親にねだった『智惠子抄』で
教科書で読んだのか? 「あどけない話」や「レモン哀歌」と、
気を病んだ智惠子さんの切り絵が強く重く残り、夕食後に両親の仕事場へ顔を出してお願いした。
ちいさくて安価な文庫判を想像していたら
龍星閣版の凾入り朱色のクロス張りに金の箔押しが出入りの本屋さんから届き、驚いた記憶
表紙を繰ると 智惠子さんの切り絵が広がり 活版印刷で黒く大きく
がっしりと刻印された文字が 肌色の紙に きちっと並んでいた。
光太郎と智惠子の 力強く 繊細で 真っ直ぐな情感が その装幀 造本にあらわれている
海がわの書架で しずかに ひかりを湛え すっくと立つ背表紙はいまも美しい。