荏柄天神社

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自室から歩いて45分、
数日前から雨を雪に変える硬質な空気がフロントガラスに結晶を作り、吐く息を白くさせる。
急な石段をのぼりきると境内にはもう人垣が出来ていて、笹と細縄と白い和紙片で
四角く区切られたぐるり、カメラ片手のおじさんたちがその矩形の空間を見詰めていた。
細かい砂利に薄い朝日が曖昧な影をうつしている。
手水所で両手と息を清め、持参した絵筆を本殿の前方、矩形の空間手前に積まれた
筆の列に加え、お賽銭を投げ入れ手を合わせる。
穂先がぽそぽそになったり短くなってしまったり、石膏を塗るなんて荒仕事を
させてしまった筆が数本、燃えるゴミに出すには忍びなく気後れすること数年、
「荏柄天神社 筆供養 針供養」の立て看板にホッと肩の荷が下り、
その日を心待ちにして居た。
 “寒ン空シヤツポがほしいな”と尾崎放哉の句を口中でつぶやきながら、
薄い日射しをさがしながら待ち時間をやり過ごす。

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梅干の種の核(さね)には天神様。
ここの梅は毎年早早と暮れには花をつけるのに、今年は遅いですね、との会話が耳に入る。
目の前の丸いつぼみが目に入る。
神主さんや氏子さん達が本殿に入り、太鼓の合図で式が始まる。
笛や笙の音が震えながら境内のすみずみにゆきわたり、そして天上へ抜けていく。
こうべを垂れ祝詞を聞き、しんとした厳かな気配がこの身の内側に沁みてくる。
筆の山に火がうつされ、けむりはくぐもった空にのぼり、炎をあげ、筆がくべられる。
あがる火を背に石段をおり、空を見ながら帰路を辿る。

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ビゴの店に寄り道してみる。
nn

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