横浜、横須賀、葉山あたり

 水無月(みずのつき)、太陽と霧状の天気雨のなか、桜木町駅を降り、
観覧車やお洒落なスポットが並ぶ海側には背を向け、中央図書館や
野毛山動物園を過ぎ、ラーメン屋定食屋、鎌倉にはないストリップ小屋などを
横目に日ノ出町を目指します。
逗子に住むCが参加しているグループ展の会場は、日ノ出町駅前の
路地裏にある「竜宮美術旅館」。その名の通り、もともとは竜宮城を
イメージした連れ込み旅館で、残っている浴室の磨りガラスには
艶めかしい女体のレリーフがほどこされていたり、
洗面所の壁には金魚や鯉が泳いでいます。
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小さな和洋室がパズルのように組み込まれ、ひとつの部屋にひとりの作家が
その空間を満たしていました。
この界隈には二十年前、市川雷蔵の映画を観に来て以来、あの頃とは
すっかり変わって、浮浪のひとや道端に立っている女性も見かけることなく、
海側は若者や観光客、反対のこっち側は、アジア人やおばちゃんおじちゃん、
学校帰りの小学生がゲイ映画館の前を通り過ぎます。
下町と山の手の景色を右目と左目で同時に見ることが出来る、
ケの日とハレの日が光と影のように寄り添っている印象でした。

 毎年夏至の日は何だか特別な感じがして、タルホの小品『夏至近く』
を読み返したりしてしまう。
今年は、横須賀美術館の川端実展へ。
横須賀駅前から観音崎行きバスに揺られてトコトコ行くコースが好きで
停泊する米軍艦船、市中心の混沌とした街並、住宅地から海沿いの港町を
蛇行するバスは小さな旅に連れていってくれる。
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川端実の絵は、鎌倉裏駅にある西洋骨董店「クール・ド・ヴェール」の原田さん
が教えてくれた。色とかたちが放つ波動が心地好く格好いい。
大きな絵を描いてみたくなる。
屋上で望遠鏡を覗き、図書室で絵本をめくり、谷内六郎館でほっこりし、
建物の窓や壁の曲線に感動する。沈む日を追いかけながら帰る。
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さて、夏至を過ぎた日盛りの午後、元居候先の“かあちゃん”
と娘達(ソラとオト)、一歳になったばかりの息子(コウ)と一緒に、
かあちゃんのママ友と故永井宏氏が始めようとしていた古本屋「一色海岸書店」へ。
永井氏が亡くなってしまったので、今年5月から海の日までの店開き、
申し訳ないけれど永井氏のことは知らず、
本の虫が連れていってとせがんだのでした。
途中、「げんべい」で、ソラとオトは真っ白いビーサンをお揃いで選び、
葉山御用邸の門は重く閉ざされ衛兵がひとり、
そこからちょっと横道に入ると雑木林もある住宅地で、細い路地が入り組んだ一角に
昭和な玄関が扉を開け放っていました。ビーサンを脱ぎ、板の間を素足でペタペタ
させながら本を物色、早速、タルホ本数冊を見つけ、興奮しながらページをめくります。
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探していた『美少女論』と『星の都』を買い、何時になくテンションの高いまま
(かあちゃんに笑われながら)車に乗り込みました。

※「竜宮美術旅館」は年内で閉館、残念ながら取り壊しされるそう。
「川端実展」は7月3日で終了。
「一色海岸書店」は7月18日に閉店しました。
nn

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